AI Assistantのご紹介 ~Trados Studioでの翻訳/レビューに生成AIを活用~
AI Assistantのご紹介 ~Trados Studioでの翻訳/レビューに生成AIを活用~
いま巷ではChatGPTに代表される生成AIテクノロジーが大きな注目を集めています。
最近のニュースを読むと、AIを業務や日常生活に積極的に取り入れて行こうという動きも見られれば、AIの行き過ぎた利用に歯止めをかけようという動きも見られますが、生成AIに対する注目度は今後ますます高まっていくと考えられます。
そして当然のことながら、こうしたトレンドは翻訳の世界にも及んでいて、いま話題のChatGPTの開発元であるOpenAI社が提供する大規模言語モデル(LLM)とTrados Studio 2022以降の連携を可能にするプラグイン「OpenAI Translator」をRWSがRWS AppStoreから無償で配布し始めたのは2023年7月のことでした(「OpenAI Translator」プラグインの活用方法をテーマとして2023年8月にRWSが開催したウェビナーの録画はこちらからご覧いただけます)。
そして現在では、「OpenAI Translator」の後継に当たる「AI Assistant」機能を含む「OpenAI provider for Trados」プラグインが無償で配布されています。
今回はこちらのOpenAI provider for Tradosプラグインについてご紹介したいと思います。
注: Trados Studio 2024のリリースに伴い、Trados Studio 2022 SR2のみをサポートするAI Professionalプラグインはメンテナンス対象外となり、今後のバージョンアップは予定されていません。そのため、Trados Studio 2022 SR2 + AI Professionalプラグインでは、OpenAIおよびAzure OpenAIが最近開したモデル(gpt-4oなど)をご利用いただけないことをご了承ください。
引き続きTrados Studioで最新のLLMを利用されたい場合は、Trados Studio 2024に移行(アップグレード)し、Trados Studio 2024で「AI Assistant」(RWS AppStore上でのプラグインの名称は「OpenAI provider for Trados」)のご利用をご検討ください。
AI Assistantとは
生成AI(Generative Artificial Intelligence)は、コンピュータが学習したデータを元に、ユーザーからの「プロンプト(命令・質問)」に応答して新しいデータや情報を生成する人工知能システムの一種と定義されています。
その中核を為すのは大規模言語モデル(LLM)と呼ばれるもので、ChatGPTなどの対話型サービスは会話の流れを理解して自然な応答を生成することに特化してトレーニングされたLLMを利用して提供される生成AIサービスに位置付けられています。
AI Assistantはこうした生成AIテクノロジーをTrados Studio内で利用できるようにする機能です。
注: AI AssistantでサポートされているTrados Studioのバージョンは2024以降のみとなっていますのでご注意ください。
AI Assistantの用途
以前のOpenAI Translatorプラグインには次の2つモードが用意されていました。
- Search from Sourceモード: LLM自身に原文を翻訳させるモード
- Search from Targetモード: 人間または他の機械翻訳サービスによって翻訳された結果に対する修正案や別訳候補をLLMに提案させるモード
これらのモードを利用することで、次のようなことが可能となります。
- 1つの原文センテンスに対して、フォーマルな訳文や簡潔な訳文など、さまざまなバリエーションの訳文をLLMに生成させ、その文脈やドキュメントタイプに最もふさわしいスタイルの訳文をその中から選ぶ、あるいはそのためのヒントを得る
- 1つの原文センテンスに対して複数の訳文候補をLLMに生成させ、元の訳文(人または他の機械翻訳サービスが翻訳した結果)が意味の上で正しいかどうかを判断するための材料を得る
新しいAI Assistantではこれらのモードを選択するためのドロップダウンリストはなくなりましたが、モデルごとの設定とプロンプト(命令・指示)を通じてやりたいこと(LLMにさせたいこと)を直接指示できるようになっています。
なお、上に挙げた用途はあくまでも例であり、その他にもプロンプトを工夫することでさまざまな使い道が考えられます。
RWS AppStoreのWebサイトまたはTrados Studio内の[アドイン]タブ → [RWS AppStore]からOpenAI provider for TradosプラグインをダウンロードしてTrados Studio 2024にインストールした後に、次の方法でOpenAIアカウントの作成とプラグイン側での設定を行うと、Trados Studioでの翻訳・レビューにOpenAIまたはAzure OpenAIのLLMを利用できるようになります。
AI AssistantではOpenAIおよびAzure OpenAIのLLMを利用できます。以下では、OpenAIのLLMを利用することを前提にOpenAIアカウントの作成からプラグインの事前セットアップまでの手順をご説明します。
※ Azure OpenAIアカウントの作成方法やAzure OpenAI LLMのデプロイおよび利用方法については、Microsoftのウェブサイトをご確認の上、Microsoft社に直接お問い合わせください。
- OpenAIのWebページにアクセスし、右上にある[Sign up]をクリックしてOpenAIへのサインインを行い、OpenAIアカウントにログインします(すでにOpenAIアカウントをお持ちの場合はそのままOpenAIアカウントにログインします)。
- ログイン後の画面の右上に歯車アイコンをクリックします。
- 画面左側のナビゲーションバーで[API keys]をクリックします。
- 画面右上にある[+ Create new secret key]をクリックします。
- 必要に応じてAPIキー(シークレットキー)の名前を設定し、[Create secret key]をクリックします。
- APIキー(シークレットキー)が表示されたら[Copy]をクリックしてクリップボードにAPIキーをコピーします。
注: ここに表示される完全なAPIキーをTrados Studio側で入力する必要があります。完全なAPIキーはこの画面を一度閉じると再び表示できなくなり、新たなAPIキーの発行が必要になるため、テキストファイルなどにコピーするなどして安全に保管してください。
- Trados Studio 2024を起動し、任意のバイリンガルファイルを開いてエディタ画面を開き、画面上部のリボンで[表示]タブを選択して、AI Assistantボタンをクリックします。
- [AI Assistant]ウィンドウが開いたら、設定ボタン(歯車のアイコン)をクリックします。
- [Settings]ウィンドウが開いたら[General]タブを選択し、[Selected Connection]フィールドの上にある[Add]をクリックします。
その後、[Add Model Connection]ウィンドウが開いたら[Model]から使用したい大規模言語モデル(LLM)を選択し、[Name]に任意の名前を入力し、[Provider]で「OpenAI」を選択し、[API key]に上記の手順6でコピーした完全なAPIキーを貼り付け、[OK]をクリックします。
使用したいモデル(LLM)が複数ある場合は、この手順を繰り返します。
注:
● [Model]には「gpt-4」等も表示されますが、OpenAI社と有償契約を結ばないと利用できないモデルもありますのでご注意ください。また、無償のOpenAIアカウントで利用できるモデルについても、無償利用枠を使い切ると接続できなくなります。[Test Connection]をクリックすると、入力したAPIキーに紐づいているOpenAIアカウントを使用して選択したモデルに接続できるかどうかをテストできます。
● OpenAIアカウントの利用プランや無償利用枠などについては、OpenAI社のWebサイトにあるヘルプなどをご確認ください。
● OpenAI APIのアクセス制限については、こちらのページの[Documentation]セクション内にある「OpenAI API Rate Limits」セクション(英語)をご覧ください。
注: このダイアログボックスにある[Temperature]パラメータはLLMからの応答のランダム性を制御するためのものです。値を低くすると規則性の高い応答が返されるようになるのに対し、値を高くするとランダム性の高い応答が返されるようになって、より「クリエイティブ」な結果が得られるようになります。
- [Settings]画面の[General]タブに戻り、[Selected Connection]から上記の手順9で設定した言語モデル構成の中から適切なものを選択します。
注:[Automatically search for translation suggestion]オプションがオンになっている間は、設定した条件に一致する分節にカーソルを置くたびにLLMとの通信が発生し、OpenAIサービスの使用量に加算されるため、LLMを利用する必要がないときはこのオプションを忘れずにオフにしてください。
※ このダイアログボックスで設定可能なオプションは次のとおりです(各項目の右にあるの上にカーソルを置くと説明(英語)が表示されます)。
Automatically search for translation suggestion: 設定した条件に一致する分節にカーソルを置くたびにLLMに問い合わせを行い、プロンプトに応じた結果を返します。
Ignore translated segments: すでに訳文が入力されていてステータスが「翻訳済み」(確定済み)となっている分節を無視するかどうかを指定します。
Ignore locked segments: ロックされている分節を無視するかどうかを指定します。(常にオン)
Enable Terminology-aware Translation Suggestions: プロジェクトの設定で指定されている用語ベースに登録された訳語を使用して訳文を生成するかどうかを指定します。
Include target segment with the translation request: 既存の訳文を参考にして新しい訳文を生成するかどうかを指定します。
Include tags in the Translation Suggestions: 原文にタグが含まれている場合に、訳文中でタグをどのように表示するかを選択します(タグIDとして表示、タグのマークのみ表示、完全なタグテキストを表示、など)。
Use In-process caching: 以前にLLMから返されたキャッシュ済みの訳文を再利用するかどうかを指定します。
Translation Results -> Assign Match value: LLMが生成した訳文を訳文分節に適用したときに、分節のステータス情報でTM一致率を何パーセントと表示するかを設定します。
Display comparison differences in the Translation Suggestions: LLMが生成した訳文を[AI Assistant]ウィンドウに表示する際に、すでに訳文分節に入力されている翻訳との違いを表示するかどうかを指定します。
以上でAI Assistantを利用するための事前セットアップは終了です。言語モデル構成を追加する場合などを除き、これらのセットアップを毎回行う必要はありません。
- まず、翻訳またはレビューしたいバイリンガルファイルをTrados Studioエディタで開きます。
- 画面上部のリボンで[表示]タブを選択して、AI Assistantボタンをクリックして[AI Assistant]ウィンドウを表示します。
- ウィンドウの位置を変更したり単独のウィンドウとして切り離したりしたい場合は、右上にある虫ピンのアイコンを1回クリックして固定を解除し、ウィンドウのタイトルバー([AI Assistant]と表示されている部分)をドラッグして任意の位置に移動します。
- [Prompt]ドロップダウンリストからプロンプト(命令)を選択します。
各プロンプト(命令)の内容を確認したい場合は、設定ボタン(歯車アイコン)をクリックして[Settings]ウィンドウを表示し、[Prompts]タブを選択します。
また、[Add]、[Edit]、[Delete]ボタンを使用して独自のプロンプトを作成したり、既存のプロンプトを編集したり、既存のプロンプトを削除したりすることもできます。
注: プロンプトは日本語でも指定できますが、一般に英語で指定するほうが効果的とされています。効果的なプロンプトの書き方については、キーワード「プロンプトエンジニアリング」などをウェブで検索することをおすすめします。
- 設定画面で[Automatically search for translation suggestion]がオンになっていて、除外設定に該当しない分節にカーソルを置いた場合は、選択したプロンプトに従ってLLMにより生成された翻訳結果が自動的に[AI Assistant]ウィンドウに表示されます。
設定画面で[Automatically search for translation suggestion]がオフになっている場合は、特定の分節にカーソルを置き、[AI Assistant]ウィンドウ上部の双眼鏡アイコンをクリックすると、選択したプロンプトに従ってLLMにより生成された翻訳結果が[AI Assistant]ウィンドウに表示されます。
- 表示された翻訳結果を訳文分節に適用したい場合は、表示された結果の右端にある翻訳メモリのアイコン()をクリックします。
以前のOpenAI Translatorプラグインでは上記のようにエディタ内で各分節にカーソルを置き、インタラクティブにLLMから生成された訳文を表示することしかできませんでしたが、AI Assistantを含むOpenAI provider for Tradosプラグインでは(Language WeaverやDeepLなどの他のニューラル機械翻訳サービスと同様に)LLMを翻訳リソースとして設定できるようになっています。
この設定を行うには、OpenAI provider for Tradosプラグインをインストールした後、次のように設定します。
【新規に作成するプロジェクトの場合】
プロジェクトの新規作成を開始し、[新しいプロジェクトの作成]ウィザードの[③翻訳リソース]ページ左側のペインで[言語ペア]>[すべての言語ペア](または特定の言語ペア)>[翻訳メモリと自動翻訳]を選択し、[使用]から[OpenAI provider for Trados]を選択します。
【既存のプロジェクトの場合】
上部リボンの[ホーム]タブにある[プロジェクトの設定]ボタンをクリックし、左側のペインで[言語ペア]>[すべての言語ペア](または特定の言語ペア)>[翻訳メモリと自動翻訳]を選択し、[使用]から[OpenAI provider for Trados]を選択します。
その後、下図の設定画面が表示されるので、使用するモデルとプロンプトを選択し、検索オプションを設定して[OK]をクリックします
このように設定すると、(新規に作成するプロジェクトの場合は)プロジェクト作成時に翻訳メモリとの一致が見つからなかった分節にLLMが生成した訳文を一括で適用でき、(既存プロジェクトの場合は)[一括タスク]>[一括翻訳]を選択して翻訳メモリとの一致が見つからずステータスが「未翻訳」となっている分節にLLMが生成した訳文を一括で適用したりすることもできます。
※ 上記のように設定して一括翻訳を実行してもAI Assitantから訳文が一括で適用されない場合は、一括翻訳の設定で[一致する分節がない場合]が[自動翻訳を適用する]に設定されていることをご確認ください。
AI Assistantのご紹介は以上です。
AI Assistantのさまざまなオプションと独自のプロンプトを組み合わせれば、ますます便利にLLMを翻訳・レビュー作業などで有効活用できそうだと思いませんか?