Trados Studio 2024のご紹介
2024年6月27日
読了目安時間:7分
Tradosは今年で40周年を迎えます。思えば、この40年間のほとんどをTradosとともに歩んできたので、自分も年を取ったと感じずにはいられません。この大きな節目にどうしてもノスタルジックな気分になってしまいますが、振り返ってみると、とても長い道のりを歩んできたことに驚かされます。
Tradosは、社内で使用するテクノロジーソリューションを開発する言語サービスプロバイダとしてスタートしましたが、数年後、初の商用翻訳生産性ソリューションを発売します(これがMultiTermです)。その後まもなく、現在のTrados Studioへと進化する製品をリリースしました。
これらの製品には当時革新的だったテクノロジーが導入され、中でも翻訳メモリと用語集管理は、その後業界全体の基盤となりました。40年以上にわたり、翻訳テクノロジーの急速な発展に対応するため、こうした基盤も必然的に何度も改修、再構築されてきました。さらに最近では、ニューラル機械翻訳とクラウドベースの作業という新たな変革が翻訳業界を大きく変貌させています。
生成AI:次の変革
そして、Trados Studio 2024が誕生しました。今回のリリースの開発で最もエキサイティングな分野の1つが、複数の新しいAI機能の追加です。特に、大規模言語モデル(LLM)の流暢さとそのプロンプト機能が活用されています。ChatGPTの原動力として2022年11月に世界に初めて紹介されたLLMは、この業界の次なる変革へと続く道を切り開きつつあります。
当社は、これらを活用して翻訳サプライチェーン全体を支援する方法をすでに多数見つけており、その数をさらに増やすために技術革新を続けています。たとえば、LLMのパワーと信頼できる言語リソース(翻訳メモリ、用語ベース、機械翻訳プロバイダ)を組み合わせることで、最初から高品質な翻訳結果が得られます。当社はこれを生成翻訳と呼んでおり、翻訳プロセスを変革する確かな潜在能力を持っています。この機能へのアクセス方法は、後ほどご説明します。
LLMを活用して仮想アシスタントを提供することもできます。当社の仮想アシスタントはTrados Copilotと呼ばれ、Tradosプラットフォーム全般で利用できます。Trados Studio 2024では、3つの新しいTrados Copilot機能、AI Assistant、Smart Help、Smart Reviewにアクセスできます。では、順に見ていきましょう。
AI Assistant - 用語集認識型翻訳などに対応
私がTrados Copilotで特に画期的だと思うのがAI Assistantです。AI Assistantは、Trados Studioのデスクトップ環境で作業中に生成翻訳機能にアクセスする手段の1つです。特筆すべきは、翻訳中にAI Assistantを使用すると、承認されているすべての用語集を自動的に適用できる点です。
機械翻訳(MT)の使用における最も一般的な不満の1つが、MTが用語集を正確に反映できないことです。MTでは、用語の一貫性や専門用語に苦戦することがあります。特定の状況で使用すべき用語が指定されている用語ベースや用語集があっても、MTプロバイダはそれらにアクセスできないため、結局は活かされません。当然のことながら、Trados Studioでは、用語ベースに登録されている用語をできるだけ簡単に検索し、正しい翻訳に手動で置き換えられるようになっています。でも、これを自動化できたら素晴らしいと思いませんか?Trados Studio 2024に標準搭載のAI Assistantでは、まさにこうしたことが実現しています。
この「用語認識型翻訳」オプションは、さまざまなシナリオで活用できます。翻訳生成時に用語を使用するようにLLMに指示を出せるのです。LLMは言語的に流暢なため、推奨用語の周辺の言語が流暢になるよう調整され、正確で自然な結果が得られる可能性が高まります。私はこの新機能を非常に気に入っており、これが翻訳生産性にインパクトを与えることを大いに期待しています。
では話を戻して、用語認識型翻訳の利用方法をご紹介しましょう。まず、最初の翻訳の翻訳プロバイダとしてLLMを導入します。すると、すべての翻訳結果に既知の用語と設定したプロンプトがすべて適用されます。あとは、翻訳結果をこれまでどおり編集します。また、LLMをポストエディットアシスタントとして使用し、ドキュメントの翻訳中に翻訳案を提示させることもできます。この場合、MT出力や、自分の翻訳、TMとの一致訳、LLM独自の出力にプロンプトを適用できます。また、このプロセスでは既知の用語も考慮されます。
AI Assistantのさまざまな活用方法についてもっと知りたい方は、AI Assistantに関する別のブログをご覧ください。ただし、当社にとって重要なのは、活用方法ではなく生成翻訳の利用をサプライチェーン全体に普及させることです。AI Assistantは現在のところ主要な2つのLLMプロバイダをサポートしていますが(ユーザーの個別のサブスクリプションが必要です)、これを増加させます。Trados Studioは、すでにMTプロバイダにアクセスするためのハブになっていますが、今後LLMのハブにもなります(RWS AppStoreから50以上のMTプロバイダをダウンロードできます)。当社は、進化するAIテクノロジーを最大限活用できるようにしていきます。
Smart Help - クラウドでインテリジェントなサポートを提供
2つ目のCopilot機能は、クラウドプラットフォームで作業する際に使用できるSmart Helpです。これは、当社独自のセキュアなLLMを使用するAI搭載の仮想アシスタントで、ボタンをクリックするだけでインテリジェントなサポートを提供します。Smart Helpは、ユーザーが入力するあらゆる質問に対し、当社の製品ドキュメントに基づいて回答します。Copilotウィンドウに質問を入力するだけで、AIチャットボットがそれに直接回答し、製品ドキュメントの関連する部分へのリンクを提示してくれるのです。実に簡単です!ドキュメントを何百ページも読んだり、別のタブに移動したりする必要はありません。答えはチャットですぐにわかります。
Smart Review - AIを活用した品質評価を実現
最後に紹介するのが、言語レビュアーの役割を果たすSmart Reviewです。Smart Reviewは、人の手による翻訳、TMからの一致訳、MTやLLMプロバイダによる自動翻訳など、翻訳のソースを問わず、あらゆる分節の翻訳品質を評価し、0~100のスコアとその理由を提示します。これにより、作業中に翻訳品質をインタラクティブにレビューできます。つまり、スコアから出力結果をレビューすべきか、そのまま適用しても問題ないか判断できるため、ポストエディット作業を集中的に行うべき部分をスマートに把握できます。
さらに、翻訳のレビュー、承認、適応を続けていくと、その入力内容が将来的にSmart Reviewの向上に役立てられます。使えば使うほどスコアの信頼性が向上するため、時間をさらに節約できるようになります。
Smart Reviewは現在ベータ版で提供されており、ご使用のクラウドアカウントにSmart Reviewの使用権が付与されている場合に利用できます。Smart Reviewを有効にすると、オンラインエディタでネイティブに操作することも、デスクトップエディタで「Trados Copilot-Smart Review」アプリを使用して操作することもできます。
アクセシビリティの向上と新しい連携機能
生成AI以外に、Trados Studioに最近加えられた変更で、私が最も画期的だと思うのは、アクセシビリティを向上させる機能です。実は、こうした機能の開発の多くは、視覚障がいを持つ1,000人以上の翻訳者が自力でTradosを操作できるようにするRWS基金の取り組みの成果です。専門知識を持つエキスパート(SME)のチームが、当社の開発チームやQAチームと密に連携し、視覚障がいを持つ翻訳者にとって可能な限りシームレスかつ直感的で、力を発揮できるユーザー体験の実現に取り組んでいます。当社は、こうした機能を実現し、Trados Studio 2024を豊富な機能を備えた最もアクセシビリティの高い翻訳支援ソフトウェアにするまであと一歩のところまで来ています。とはいえ、当社ができることはまだたくさんあるため、この分野で前進を続けていくことを誓いたいと思います。
Trados Studio 2024は、次のような画期的な新しいアクセシビリティ機能を搭載しています。
- スクリーンリーダーのサポート:当社は、スクリーンリーダーにアクセスできるデスクトップアプリケーションを開発するため、多くの努力をしてきました。そして今回、プロジェクトの作成や管理から、翻訳、最終ファイルの納品に至るプロジェクトワークフローのすべての段階で、スクリーンリーダーを使用できるようになりました。
- サードパーティ製アプリとの連携:今回のTrados Studioデスクトップアプリケーションの最新化により、すべてのユーザーにもたらされる興味深いメリットはほかにもあります。たとえば、デスクトップアプリケーションが多くのサードパーティ製アプリと連携するようになりました。その1つがGrammarlyです。デスクトップエディタでGrammarlyを直接利用できるようになったことは、ユーザー体験の大幅な向上につながっています。
- オンラインエディタに音声入力機能を搭載:オンラインエディタにも重要なアクセシビリティ機能を追加しました。テキストを書き起こしたり、音声入力やコマンドで130以上の操作を実行したりすることができます。この機能は現在9言語で利用でき、ユーザーは自分の声で簡単に多くのタスクを完了させることができます。
アクセシビリティは現在、私たちにとって大きなテーマとなっています。このテーマについて皆さんのご意見をお聞きしたいと思います。Trados Studioに関して、便利な点、不便な点、できたらいいなと思うことなど、ご意見がありましたら、ぜひお知らせください。
クラウドとデスクトップの統合を強化
マネージャビュー:クラウド環境でも、デスクトップ環境でも、Trados Studioユーザーは、ボタンをクリックするだけで翻訳環境を切り替えることができます。当社は、翻訳作業を可能な限りシームレスに進められるように、2つの環境の連携を強化する新たな方法を常に探っています。この分野に最近追加された機能強化の1つがマネージャビューです。
マネージャビューは当初、Trados Studio 2022のベータ版としてリリースしました。その後、操作性についてフィードバックを収集し、現在の強力なツールを開発しました。Trados Studio 2024ではベータ版ではなく、デスクトップアプリケーションでフルに利用できます。では、具体的にはどのような機能でしょうか?きっと、気になられていると思いますが...
マネージャビューは、プロジェクト、ファイル、レポートを操作するまったく新しい方法を提供します。マネージャビューのUIは、Tradosクラウドプラットフォームをヒントにしており、プロジェクトとファイルの両方を1つのウィンドウで操作できます。ファイルやプロジェクトの作成場所や保存場所(クラウドプラットフォーム、共有サーバー、ローカルマシン)を問わず、すべてを1か所に表示し、重要な分析やレポートとともに閲覧できます。さらに、マルチウィンドウとマルチモニターをサポートしているため、非常に簡単に、複数のプロジェクトを同時に作業したり比較したりできます。また、従来どおりの個別のファイルビューやプロジェクトビューも使用できます(なくなる機能はありません!)。どちらを使うかはユーザー次第です。
デスクトップでの一括処理にクラウドリソースを使用可能:Trados Studio 2024のもう1つの重要な機能強化として、ローカルのTrados Studioプロジェクトの一括処理にクラウドリソースを使用できるようになりました。これは画期的な機能強化です。Trados Team、Accelerate、Enterpriseのサブスクリプションを利用し、ハイブリッドな方法(ブラウザとデスクトップアプリケーションの両方を活用)で作業を進めているプロジェクトマネージャーの多くの方から寄せられていた要望だったため、今回実現できて、とても嬉しく思います。
ユーザーは、クラウドプロジェクトの作業をする際に両方の環境を活用できるため、生産性を最大限に高め、ワークフロー全体の柔軟性を大幅に向上させることができます。
こうしたことは、Trados Studioユーザーの皆様に、よりシームレスな体験を提供するために当社が行っているさまざまな取り組みの一部に過ぎません。ほかにも、スマートアクションの追加、新しいリアルタイムプレビュー、ドキュメント構造情報(DSI)パネル、用語集管理の強化など、オンラインエディタとクラウドの用語集に100以上の機能強化を行っています。
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このようなリリース概要ではいつものことですが、すべてを取り上げることはできません。Trados Studioのオンラインエディタとデスクトップエディタで、Language Weaverの機械翻訳品質評価(MTQE)を最初からサポートするようになったことや、ファイル処理や進捗管理の機能強化についてはまだ触れていません。すべての機能について詳しく知りたい方は、新機能に関するカタログとリリースノートをご覧ください。
また、Trados Studio 2024に移行する準備が整ったら、すぐに購入していただけます。個人翻訳者の方は価格表ページからご購入ください。企業や翻訳会社の方は担当営業または当社に直接お問い合わせください。